帆を張れ

心を逸らせるブログ

人生で1番観た映画(『THE FIRST SLAM DUNK』のこと)

年の瀬だし今年観た映画を振り返ってみようと思うのだが、2023年はいままでとは違う年だった。


よかった映画をまとめるのは別の記事にするとして、そのまえに『THE FIRST SLAM DUNK』(以下、ザファと呼ぶ)のことを書かねばと思う。

 

以下、スラムダンクのネタバレします!

ハイキューのネタバレもしています!

 

正確には2022年公開なのですが

 

この映画を10回ちょっと映画館で観るほどハマったのが、私の2023年であった。今までで1番通った映画で、『君の名前で僕を呼んで』の3回。

映画は決められた時間を奪われる娯楽で、生活の合間を縫って映画館に行くのは結構大変だ。あの暗闇に閉じ込められに行くのは実はエネルギーも使う。お金もかかる。

しかしザファは毎回いろんなイベント(舞台挨拶とか副音声とか)をしてくれていたので、それにかこつけて、何回も観てしまった。

 

まず読んだことなかった

小さい頃、田舎のお婆ちゃんの家に散らばっていた従兄弟のであろう『リアル』と『バガボンド』は読み尽くしていたので、井上先生の絵のすごさとかは分かっていたんだけど、スラダンには縁がなかった。

テレビや、やってた進研ゼミの名言紹介コーナーみたいなのや、ネットのコマ切り抜きやSNSなど、あらゆる媒体経由で有名なセリフや終わり方をぼんやり知ってしまい、ちゃんと読むタイミングを逃していた。去年くらいからさすがに読むべ…と再編集版コミックスを集めていたタイミングで、映画が公開された。評判を聞いてすぐ観たくなり、ひとまず1回目は全部読まずに行った。

 

スラムダンクは傑作だ…

1回目を観に行ってから、しっかりとスラムダンク原作を読破した私は、この漫画が日本一の少年漫画とされる理由を理解した。(笑)今読んでもこんなに面白いなんて思わなかった。

展開もセリフもシンプルだが骨が太く、「これが『面白いマンガの一つの完成形』だ!」突きつけられてしまって気持ち良い。打ちのめされた。

何より、画力でほとんど説明してしまえている、わからせられる。画力ってのは演技力であり、演出力であり、ストーリーと骨と腱のように切れない関係なんだと思い知った。

読んでて一番意外だったのは、笑える漫画ということ。ギャグとシリアスのバランスが絶妙で、何回も大爆笑しながら読んだのだった。「緊張と緩和」の教科書みたいな感じ。クールキャラポジションだと思っていた流川が一番面白いのがたまらない。井上先生のしなしなした書き文字も絶妙に面白い。

てか、「俺は今なんだよ」をはじめ、数多い有名な名言も、前後の流れあって沁みるものじゃね〜か!ずっとどういう意味なんだ?と思ってたんだわ。そして1番の名言は「今度は嘘じゃないっす」だと私は思う。これはあまり有名じゃないな。言葉のはらむニュアンスが絶妙で素晴らしいのに。でも知らずに読めて良かったわ。

その後の連載である『リアル』は同じバスケを題材にしながら、陰鬱な空気がありシリアスにかなり寄っている。少年漫画で主人公にならない人間たちの話だ。スラダンのカウンターを自らやっているようなことだよな。クソみたいなどうしようもない葛藤がある。この『リアル』そして『バガボンド』を経たからこその人間ドラマ『ザファ』、という批評も聞く。でも、“王道少年漫画”『スラムダンク』の時点でも花道の父親の話や「まるで成長していない」の谷沢の話など、現実的な苦い話が挟み込まれている。

 

映画的主人公宮城リョータ

スラダンのメインキャラ、スタメン5人の中で唯一、宮城リョータのことは映画を観るまで認識してなかった。でもこの映画が気になる大きなきっかけはこのキャラクターだった。

 

桜木花道からはリョーちんと呼ばれ、妹と母からはリョーちゃんと呼ばれていると今回明らかになった、輩なのにどこかキュートな宮城リョータ


ラジオ『アフター6ジャンクション』でMCのライムスター宇多丸さんの当時のマネージャー小山内さんが熱く語っていたのが印象に残った。

 

各プラットフォームのポッドキャストで聴けます。

32:35〜42:00くらい。熱量を感じて下さい


小山内さんは連載当時からリョーちんが好きだったので、映画はやばかったと熱く語られていた。宮城は原作では内面、パーソナルな部分が全く掘り下げられていなくて、コメディーリリーフとして居るだけ。(あと宇多丸さんは“三井を連れてくる役”と表現している。たしかに!)

つまり、今回の映画で数十年越しに、宮城が過去に何があって、何を考えて生きてきたかが急に明かされているということだった。

その話で、わたしも観る前から胸が熱くなってしまったのだった………

 

映画で悲しい過去が明かされたことにより、宮城のキャラのイメージが変わりすぎてるというファンの人の落胆の声も見たし、そうなるのも分かると思う。井上先生も、これはこれでみんなが初めて観るスラムダンク、として作っている、というような発言をしてる。リョータを主人公にした読み切り『ピアス』もそうだけど、同じキャラのマルチバース的な感じで捉えるべきなのだと思う。

でも、先述したように漫画スラダンにもずっとシリアスな顔があって、井上先生の作家性はずっとぶれていないし、リョータの過去の描写も、「原作漫画で語られなかった一面」として見ても変じゃないようになっている。この映画の非常に重要なポイントと感じる所だ。

漫画でもちゃんとリストバンドを2個してるし、映画で重要なメタファーになる「手のひら」を見るシーンも多々あるし、「宮城」は沖縄の人に多い苗字らしい。映画を経てから漫画を読むと「あんな過去があっても“平気なフリ“をして生きてたんだな」と、すべてひっくるめて捉えられるように作られていてかなり親切。「継ぎ足し」がとても丁寧かつ巧みだし、キャラクターに深みが増している、とわたしは思う。

美味しすぎる。数十年越しにこの映画でまた宮城に出会ったファンのことを思うと張り裂けそうになる。

10回も観た今もまだまだ胸が熱い。

 

個人的には、映画での新規シーン「俺たちならできる」(試合の終盤)のくだりはあまりにも急に大人びすぎている気がしないでもない。そのくらいの器じゃないとインターハイで勝てないだろうけど。漫画の豊玉戦でのイライラしてミスりまくる宮城のほうが「らしい」気はする。

ただ、「いけるならいっちゃえ」という追加セリフは原作のやんちゃな宮城みも少しありながら絶妙に可愛くて大好きだ・・・し、ここのシークエンスは宮城の成長を見せるその後のクライマックスの重要な補助線にしてあるので、無駄がない。この山王との試合で宮城は決定的に何か変わったのだ。と取れる。結局、井上雄彦先生および監督はすごいのだった。

宮城の家族をめぐるドラマ部分のオリジナルストーリーは、とてもベタだと思ったし、個人的には家族の話がそんなに好きじゃ無いので、最初はぴんとこなかった。

でも何回も観ているうちに、母親とリョータの心情の丁寧な描写とか、「手」の演出とか、試合シーンとの呼応とか、何個も再発見があった。すごい無駄がない作劇だなと分かってきた。

それを何年も前の原作と新しく織り交ぜているのだからすごい。あの頃の設定なのに古くも感じないし。不良描写以外は!

家族ドラマとしてもいい話。試合での成長が家族の色々を乗り越えることにもなっていて、プレイヤーだけでなく、しっかり主人公として内面的な成長を見せる。


大雑把に論じるなら、「ジャンル漫画」で桜木花道的な主人公は桜木花道以降生み出されすぎたと思う。初心者が開花していくタイプの漫画はもうわたしは読みたくない。笑 わたしの中では『ボールルームへようこそ』あたりで飽和してしまった。そして桜木花道が頂点だから、目指すべきでもないと思う。

宮城リョータはキャラクターの強さではなく、繊細さの面でザファを「2023年のスラムダンク」にしてくれた感じがする。

 

漫画とアニメ

私は、漫画を読むのは好き、というか息を吸うのと同じくらい切り離せないものだ。

でもアニメはあまり観ない。時間の流れを感じてしまう。

漫画至上主義なところがあるのでとくに漫画原作だと、その作品が好きであればあるほど、線や絵柄の違いに拒否反応が出てしまう。だからといって漫画にばっちり寄せられても、=アニメとして良いわけでないからむずかしい。

だけど、ザファはめっちゃ絵が良かった。

試合のシーンが特にすごい。モーションキャプチャーが使われている(生身の人間にいっぱいチップみたいなのつけて取り込んでその動きをもとにアニメにするリアルな動きのやつ)のだが、絵はちゃんと井上先生の血の通ったタッチなのだ。そんなことできるんかい。その上できちんとCGアニメの絵で、めっちゃかっこよかった。

YouTubeでもちょっと観られます

あとからオフィシャルブック『re:source』を読んだら、井上先生が直接アニメーターさん達に描き込んで指示して、相当細かくリテイクしていた。すごい!と思った部分はただただ、人力だった。そのリテイクはこんなにこだわるのか…とちょっと驚いてしまうほどの、というか、こんなに言われたらダルいな…と嫌になるような細かさだった。でも、ちょっとした耳の形、髪の毛、目の大きさを直すことでキャラクターが全然違って見えて、そうか、そこの違いなんだ、物作るってそういうことじゃないか、とハッとさせられた。ここまで手を入れないとあんな素晴らしい画にはならない、というのは、希望でもあった。

 

加点しまくってしまう映画

でもやはり、試合シーンに対してこのドラマパートである回想シーンがすごくゆったりしているのが、良くない。(試合シーンの時間感覚の描き方があまりにも巧いからよけいに?)試合シーンでの気持ちの盛り上がりがしゅーっと冷めてしまう。試合シーンと回想シーンがもっとテンポよく切り替わったほうがいいと思うと、何回観ても思う。試合と時間の流れを変える意図があるのだろうか。

試合シーンにかかる10-FEETのタクマさんと、KinKi Kidsファンにもおなじみ、FNS歌謡祭でピアノを弾いている武部聡さんの劇伴もバンド音楽過ぎて、物語と浮いているように思った。何回も観ると馴染んだんだけどね。

と、手放しですべて最高な映画、と思ってるいるわけではないのだが、他が良いので気になるのである。やはり試合のシーンがすべてをチャラにした。絵のタッチは先述したとおりだけど、アニメーション、動きもすごい。自分も会場、どころかコートの中にいるような感覚。そういう視線のカメラワークだし、(沢北が覗いてくるような山王選手たちのシーンがとくに最高!)リアルなスポーツの動きをするキャラクターの動きに感動した。バスケをやらないけど、かなり具体的に擬似体験させてくれてる気がした。


それで何回も観に行ってしまって、気付けば人生で一番観た映画になっていた。冬から夏になり、映画館に行けばずっとザファをやってる気がしてた。あそこに永遠があった。

回想シーンのテンポについては、応援上映や音声字幕を聞きながらだとあまり気にならない、むしろ丁度いいくらいかも。

「ここからは別の試合が始まるぞ」や「 ノーマークだったはずだよな、湘北なんて…」とかのセリフも、突然に感じるというか、あまり活きていないように思う。漫画とアニメーション、映像のリズムは違うから、そこらへんは井上監督の初戦として受け入れたい。(偉そうになってしまっている)

また何回か観たら感じ方が違う可能性もあるけど…

とにかく観飽きない画の魅力があり、観るたびに発見がある映画であった。

 

ラストシーン

この作品が私にとって傑作になった決め手は終わり方の美しさである。1回目に原作未読でこの映画を観た時、わたしは「ハイキューじゃん」と思った。『ハイキュー!!』が『スラムダンク』の後世にジャンプで連載をしているわけで、影響を受けているのはハイキューで、逆か、と帰り道に気付いたんだけれど。

何よりも、終わり方がハイキューだったのだ。

スラムダンク後のジャンプスポーツ漫画のハイキュー(2020年完結)と、その後に出たスラムダンクの映画(2022年公開)のラストが被っていたのが、すごく感動的だった。

今日本で描かれるスポーツを題材とした作品の正解(というか、時代の空気感?)はこれなんだ。男子バレー日本代表の、そして今年の男子バスケ日本代表の活躍を観るにしても分かるだろう。「高校では終われな」かった人たちが活躍の場を広げている現代を。

あのラストシーンがいつなのかとか、詳しくは分からないけどその位にしているのがにくいし、原作後をハッキリ描いていたことが嬉しすぎるし、やはり時を超えて2023年にスラムダンクを映画でまた作った意味があったんだ、と思う。

 

ザファに出会って考えたこと

 

漫画とアニメはこんなに近づけるし、けど、違うものなんだなというのが10回観てのわたしの感想だ。


それでもってわたしは結局、漫画好きの映画鑑賞人なんだと思う。創作物は写実より抽象、実写より絵、デフォルメ、に惹かれる人間みたいだ。だからこんなに何回も観たんだと思う。実写映画とか、いわゆるシネフィルの人が観るような傑作映画を何回も観ることは無いのかも。そうなろうとしても。

 

 

 

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