帆を張れ

心を逸らせるブログ

暇だね〜(『イニシェリン島の精霊』感想)

マーティン・マクドナー監督の最新作『イニシェリン島の精霊』を観た。

 

 

 

※ネタバレがあります

 

 前作『スリービルボード』しか観たことしかない人間の感想だけど、やっぱりマクドナーの脚本は、着眼点が独特でありながら、カオスになりすぎないのが面白いなと思った。

 物語は主人公のパードリックが「今日からお前と友達やめる!」と長年の友達のコルムに言われるところから始まる。

 その理由をなんとか聞き出してみると、「これ以上お前のつまらない話に付き合っている時間がないから」というもの。コルムはバイオリン弾きで芸術を嗜む人であり、これからの残り少ない人生は作曲に時間を使いたいため、毎日パブに飲みに誘って中身のない話をしてくるつまらない人間パードリックとはもう絶交したい。というのである。ああ、そういう考えになるのは分かる。と思った。時間は有限だから。

しかし芸術もわからず趣味も持たないパードリック。納得できずコルムに絡み続けると、パードリックは「今後お前が話しかけるたびに俺は自分の指を一本ずつ切り落とす」と脅し、マジで切り落としてしまう。ここから映画が転がり出す。指が切り落とされた画がショッキングすぎるからいやでも動き出す。(笑)ここまでで時間的には映画の半分くらい。このきっかけまでが少し長かったかな。

 

 しっかし、コルムはメンヘラなのか?極端すぎる。ここまでくるとちょっとパードリックをへんに意識し過ぎだと思う。話したくないなら嘘をつくとかしたほうがいい。田舎なんだから嫌でも会うのに。そして、こんな気持ち悪いことをされても話しかけてしまうパードリック。異常だ。滑稽だった。でも他に彼には何にもやることもなく、友達もいないのだ。やりとりはエスカレートし、しまいにはパードリックがコルムを殺そうとして家を燃やしてしまうが、コルムは止めない。ここまできたらもうそういうプレイをしてる相思相愛の2人?ていう感じもある。ほんと面白い映画だ。

 前作の『スリー・ビルボード』も主人公はどんどん身も心もボロボロになり、怒りで自分を見失い、いくとこまでいく。それは娘をレイプし焼殺した犯人を探したいから、が発端だ。でも今作の理由は何かというと、「友達ともう話したくない」だけだ。そこが今作と前作の大きな違いな気がした。切実だが、とてもくだらない。

 なぜこんな事態になるかというと、暇だからだと思う。田舎は暇。監督はイニシェリン島を美しく撮ってもいたけど、そういうところに住む人達の生活のしんどさ、文化的な?貧しさも分かっているのかなーと思った。

 そしてもう一つの違いがあるとしたら主人公の性別。その点から見てもこのくだらなさは恣意的なものなのかな…と思った。パードリックの妹はとても賢い設定にしているし。

“男達”の背負う虚しさが結構映画全体にはびこっているような気がした。コルムが女性ならこんなことはしないはずだ。こんなことを考える心の暇がないはずだ。パードリックが妹に宛てた手紙の一文もとても虚しいものであった。

 

ラストシーンはどう解釈したらよいのか。結局あんたら何がしたいのか?それでも美しく映画は終わっていった。